日産自動車株式会社の企業研究

サラリーマンの FIRE「企業研究」 企業研究
サラリーマンの FIRE「企業研究」

自動車大手の日産自動車株式会社の企業研究を行う。

2024年12月末より,日産自動車と本田技研工業の経営統合に向けた協議が始まったが,2025年2月に打ち切り。

100 年に一度と言われるモビリティの大変革時代,日産自動車を取り巻く状況は目まぐるしく変化している。

日産自動車の歴史

日産自動車の歴史を示す。

年月日出来事
1933年日産コンツェルンの総帥である鮎川義介氏が前身会社の「自動車製造」を設立
1934年社名を「日産自動車」に改名
1953年日本興業銀行出身の川又克二専務を中心に第二労働組合を設立,左派系労組を壊滅へ
1957年川又克二1氏が社長に就任
1961年第二労組委員長に塩路一郎2氏が就任(川又氏と塩路氏の労使蜜月関係が始まる)
追浜工場操業開始
1966年「サニー」発売
1966年8月1日プリンス自動車と合併(日産自動車による実質的な吸収合併)
1977年石原俊氏が社長に就任し,労使との蜜月に決別。また,グローバル 10 という経営計画を掲げ,世界シェア 10 % を目指し始めた。
1988年「シーマ」発売
1998年約 2 兆円の有利子負債を抱え経営危機に陥る
1999年3月フランスの自動車メーカのルノーと資本提携(ルノー・日産アライアンス)
ルノーから 36.8 % の資本を受け入れ,ルノー傘下に入り更正を図る
1999年6月カルロス・ゴーン3氏が最高執行責任者(COO)として日産に入社
1999年10月18日日産リバイバルプラン (NRP : Nissan Revival Plan) を発表
2000年6月カルロス・ゴーン氏が取締役就任
2001年6月カルロス・ゴーン氏が最高経営責任者(CEO)就任
2005年4月カルロス・ゴーン氏はルノーの取締役会長兼 CEO(PDG)兼任
2009年8月2日横浜グローバル本社竣工
2010年電気自動車(EV)「リーフ」発売
2016年5月12日三菱自動車の発行済み株式の 34 % を取得し,筆頭株主へ
2017年ルノー・日産・三菱アライアンス
西川廣人氏が社長兼 CEO に就任
2018年11月19日カルロス・ゴーン氏,金融商品取引法違反で逮捕
2018年11月22日臨時取締役会で,カルロス・ゴーン氏,グレッグ・ケリー氏の解任を決議
2019年6月アシュワニ・グプタ氏,COO に就任
2019年10月8日報酬問題で西川氏が引責辞任し,後任に内田誠氏が就任
2020年5月28日2019年度の決算発表において,巨額の赤字決済
事業構造改造計画「NISSAN NEXT」を発表
2023年2月6日ルノーの日産への出資比率は 39 %,将来 15 %へ(対等な関係へ移行)
2023年6月アシュワニ・グプタ氏,COO を辞任し退社
2024年3月日産自動車と Honda は包括的な覚書を結び,自動車の電動化・AI 化に向け協業の検討を進めていくと発表
2024年12月23日日産自動車と Honda,経営統合に向けた検討に関する基本合意書を締結4
日産自動車,Honda,三菱自動車,3 社協業形態の検討に関する覚書を締結5
2025年2月13日2024年12月13日に締結した基本合意書,覚書を撤回
2025年3月11日2025年4月1日付で内田誠社長が退任し,後任にチーフプランニングオフィサーのイヴァン・エスピノーサ氏を起用する人事を発表
2025年4月31日ルノーと日産は,新たな戦略プロジェクトを発表。アライアンス契約を改訂し,両者が義務を負う株式最低保有比率を,従来の 15 % から 10 % に引き下げる(新アライアンス契約の改訂は2025年5月末までに完了する見込み)。
2025年4月1日内田誠社長が退任し,イヴァン・エスピノーサ氏が社長就任
2025年7月15日追浜工場での生産を2027年度末まで,平塚市にある日産車体湘南工場での生産を2026年度までに終了すると正式発表

内田誠社長決定まで

西川氏後任社長の選定をめぐり,指名委員会は迷走。

関係者によると,当時の指名委員 6 人のうち,3 人が専務の関潤氏,2 人が三菱自動車 COO のアシュワニ・グプタ氏,1 人が暫定 CEO の山内康裕氏を推薦したという。

関氏が社長に決まりかけたが,過半数をとれていないとして,当時まだ約 43 % を出資していたルノーの会長で指名委員でもあったジャンドミニク・スナール氏が反対。

当初誰も推薦していなかった専務の内田誠氏が,ルノー側の推挙により社長に抜擢された。

2019年10月8日,内田誠氏を代表執行役社長兼最高経営責任者(CEO)に任命,アシュワニ・グプタ氏を代表執行役兼最高執行責任者(COO)に任命,関潤を執行役副 COO に任命したことを発表した。

社長候補だった関氏はナンバー 3 の副 COO に就いた。関氏はゴーン時代の積極投資による過剰生産能力を圧縮するため,海外工場の閉鎖などを行う事業構造改革の責任者となった。しかし,日本電産(現ニデック)会長だった永守重信氏によるヘッドハントで,1 か月足らずで会社を去った。

イヴァン・エスピノーサ社長決定まで

2025年3月11日,日産自動車は取締役会を開き,今月末で内田誠社長が退任する人事を決めた。

内田社長は,2019年に就任したが販売台数は 5 年でおよそ 4 割減少。内田社長は,次のように語った。

私に対する経営責任を問う声が社外だけでなく,弊社の従業員からも出てくるようになった。新しい経営陣のもと,従業員の力を最大限引き出し,日産を再び成長軌道に戻していってくれることを心から願っています。

内田社長の後任のイヴァン・エスピノーサ (Ivan Espinosa) 氏は,2003年にメキシコ日産に入社。2018年から商品企画を担当してきた。エスピノーサ氏は現在 46 歳で,CEO への就任年齢としてはカルロス・ゴーン氏の 47 歳を抜き,日産史上最年少のトップとなる。

指名委員会の木村康委員長は,エスピノーサ氏を指名した理由について「日産愛」を挙げた。また,内田氏は「エネルギッシュで自他ともに認めるカーガイ(車への情熱を持つ人物)。今のこの難局を乗り越え,会社を未来へと力強くけん引してくれると期待している」と話した。

日産自動車の IR 情報

日産自動車の IR 情報を示す。

売上,営業利益,純利益の推移

日産自動車の売上,営業利益,純利益の推移を示す。

日産リバイバルプラン(1999年10月18日~)により,営業利益率が急上昇し,2003 年度は 11.1 % に達している。

図 日産自動車の売上,営業利益,純利益の推移

2025年3月期連結決算

2025年4月24日,日産自動車は,2025年3月期連結決算の最終利益が最大 7,500 億円(見通しは 7,500 億円から 7,000 億円の赤字)の赤字になる見通しであることを発表。2025年2月時点で見込んでいた 800 億円の最終赤字から大幅に下方修正した。

比較可能な 1986年3月期以降で最大の赤字(2000年3月期の 6,843 億円の赤字を上回る)。

社長兼最高経営責任者のエスピノーザ氏は次のように述べた。

私たちは、自社の業績と生産に関わる資産を精査し、通期見通しを修正しました。
当期は大幅な純損失を見込みますが、主な要因は資産の減損損失と、今後の事業安定化に向けたリストラ費用です。
私たちは困難な状況に直面していますが、当社には潤沢な財務基盤と強力な商品ラインアップがあります。
今後も強い意志を持って、日産の再建に取り組んでいきます。

2025年5月13日,日産自動車は 2024 年度決算を発表した。

2024 年度通期の営業利益は 698 億円,売上高営業利益率は 0.6 % となった。

また,関税による不確実性を踏まえ,2025 年度の業績は未定とした。

2025年9月中間連結決算

2025年11月6日,日産自動車が発表した2025年9月中間決算は,最終利益が 2219 億円の赤字(前年同期は 192 億円の黒字)だった。

  • 売上高 : 5 兆 5786 億円(前年同期比 6.8 % 減)
  • 営業利益 : △ 276 億円(前年同期は 329 億円の黒字)

国内などでの販売低迷に加え,米国の関税措置が重荷となり,中間期としては 5 根ぶりの赤字となった。リストラ策の一環として横浜市の本社ビルを売却すると発表した。

イバン・エスピノーザ社長は記者会見で「厳しい環境でも,着実に前進している。資産の最適化を進め,日産が勝ち残る体制を整える」と述べた。

本社ビル売却の狙い

本社ビルの売却は,手元資金を確保するのが目的である。台湾系の自動車部品大手「ミンスグループ」や米投資ファンドの KKR などが関与する特別目的会社 (SPC) に売却する。

2025年12月の売却を予定しており,売却後も賃貸契約を結んで建物の使用を続ける。

2026年3月期に 739 億円の特別利益を計上する。

横浜・みなとみらい 21 (MM21) 地区のオフィスビルは 2009年から 1.5 倍の 40 棟あまりに増え,平均賃料は 2 割ほど上昇している。グローバル本社は地下 2 階,地上 22 階建て。大企業が入居する近隣ビルの賃料相場は,日産の 1 フロア(約 3000 平方メートル)に換算すると 2000 万円超となる。日産が支払う賃料を見積もると,2000 万円 × 24 フロア × 12 か月 で576,000 万円(57.6 億円)とみられる。

本社ビル売却により,手元資金を調達する一時しのぎにはなるが,年間 50 億円と想定される賃料は,日産のキャッシュフローへ影響すると考えられる。

2025年年度第3四半期決算

2026年2月12日,日産自動車は 2025 年度第 3 四半期決算を発表し,通期業績見通しを修正した。

  • 第 3 四半期の営業利益は 175 億円の黒字
  • 2025 年度通期の業績見通しを見直し,営業利益を情報修正
  • 生産拠点の再編を予定する 7 つ目の拠点を発表し,Re:Nissan の取り組みを加速

当期純利益は,-6500 億円を見込んでいるとのことだが,その大部分は現金支出を伴わないノンキャッシュ項目だという。

グローバル販売台数(小売)の推移

日産自動車のグローバル販売台数(小売)の推移を示す。

米国や欧州では,金利上昇による景気の冷え込みが懸念され,販売台数にもその影響が出ている。また,中国では EV の価格競争が激化している。

図 日産自動車のグローバル販売台数(小売)の推移

2025年3月期のグローバル販売台数

2025年4月24日,日産自動車は,2025年3月期のグローバル生産台数は 335 万台の見込みと発表。2025年2月時点で見込んでいた 340 万台から下方修正した。

2025年のグローバル販売台数

2026年1月29日,発表した2025年の世界販売台数は前年比 4.4 % 減の 320 万台だった。

グローバル生産台数の推移

日産自動車のグローバル生産台数の推移を示す。

グローバル生産台数は,2018年3月期の 5,672 千台をピークに減少を続けている。

図 日産自動車のグローバル生産台数の推移

2025年の生産台数

販売不振に伴い,生産台数も国内 13 % 減少した。EV 需要の減速で EV 生産拠点の栃木工場(栃木県)での稼働率が 2025 年に 1 割に低迷した。

日産自動車の再建計画

日産自動車は経営危機に陥ると,再建計画を立てて,経営再建に取り組んできた。

日産リバイバルプラン (1999-10-18)

日産リバイバルプラン (NRP : Nissan Revival Plan) とは,1999年10月18日にカルロス・ゴーン最高執行責任者(COO,当時)が発表した日産自動車の再建計画である。

この再建計画では,3 つの達成目標を掲げ,一つでも未達成の場合は「経営陣全員が辞任する」とカルロス・ゴーンが公約した。

ゴーン氏は「コスト・カッター」と呼ばれ,1 兆円のコスト削減を目指すと宣言した。

  • 2000 年度連結当期利益の黒字化
  • 2002 年度連結売上高利益率 4.5 % 以上
  • 2002 年度末までに自動車事業の連結有利子負債を 7000 億円以下に削減

2 万人超の人員削減や村山工場(東京都武蔵村山市)の閉鎖などの大規模なリストラ策で社会に衝撃を与えた。

1999 年度にリストラ費の計上などで最終利益が 7,000 億円近い赤字に陥ったが,翌年度には 3,000 億円超の黒字に転換し,「V 字回復」ともてはやされた。

そして,当初の予定より 1 年前倒しで,売上高などの業績を著しく向上させ,2003 年までの 4 年間で 2 兆1000 億円もの巨額の借金を完済した。

ターンアラウンド (2024-11-07)

日産自動車は,2024年11月7日,以下のターンアラウンドの取り組みを発表した。

  • グローバルの生産能力を 20 % 削減
  • グローバル人員数を 9000 人削減,販売管理費の削減
  • 製造原価(変動費)の削減
  • 会社資産の合理化
  • 設備投資と研究開発費用の優先度を見直し

これらを実施することにより,固定費の 3000 億円削減(2024年度対比),健全なレベルのフリーキャッシュフローを維持,変動費の 1000 億円削減(2024年度対比)を目指している。

ターンアラウンドの取り組みを通じて「2026 年度までに年間 350 万台の販売でも,持続可能な収益性とキャッシュを確保できる体制に会社を変革する」とした。

グローバルの減産計画

米国のトランプ政権による輸入車への追加関税が発動したことを受け,2025年4月から予定していた原産計画について,一部撤回する方針を明らかにした。

Re:Nissan (2025-05-13)

2025年5月13日,日産自動車は新たなマネジメント態勢(イバン・エスピノーサ社長が主導)のもと,目標や主要な取り組みについて見直しを行い,確実な事業回復に向けて日産経営再建計画「Re:Nissan」を策定した。

Re:Nissan を通じて,2024 年度の実績比で,固定費と変動費を計 5,000 億円削減し,2026 年度までに自動車事業における営業利益とフリーキャッシュフローの黒字化を目指すという。

具体的には,以下の 4 つの取り組みが行われる。

  1. 変動費の削減
  2. 固定費の削減
  3. 市場戦略と商品戦略の再定義
  4. パートナーシップの強化

特に注目すべきは固定費の削減に掲げられた「生産の再編と効率化」と「人員の削減」である。

生産の再編と効率化では,車両生産工場を 2027 年度までに 17 から 10 の工場に統合する。

人員の削減では,2024 年度から 2027 年度にかけて計 20,000 人の人員削減を行う(ターンアラウンドで発表していた 9,000 人の削減を含む)。

CEO のエスピノーサは,Re:Nissan について次のように述べた。

日産は直面する 2024 年度の厳しい業績,変動費の上昇,不透明な市場環境に対応するため,私たちは迅速に自己改善を行い,より販売台数に依存しない収益性を目指します。新しい経営陣は目標を慎重に再評価し,確実に業績を回復させるためのあらゆる機会を積極的に検討しています。Re:Nissanはコスト削減,戦略の再定義,パートナーシップの強化を柱とした現実的な実行計画です。

追浜工場の生産終了(2025/7/15)

日産自動車は2025年7月15日,追浜工場での生産を2027年度末まで,また平塚市にある日産車体湘南工場での生産を2026年度までに終了すると正式に発表した。

記者会見したエスピノーサ社長は,「非常に痛みを伴う決断だった。しかし成長に戻すためにはやらなければならない」と苦渋の決断だったことを強調した。

追浜工場の跡地活用も大きな課題である。雇用を守るには,日系の自動車大手が活用してくれるのが理想であるが,難しい。

日産の国内工場の閉鎖は,2001年の村山工場以来のことで,国内工場は現在の 5つから九州 2 工場と栃木工場の合わせて 3 工場に集約されることになる。

横浜マリノスの経営権は維持(2025/10/3)

日産自動車は2025年10月3日,マリノスの筆頭株主(約 75 % を保有)であり続けると声明を発表した。

ウォークイン店舗を倍増させると発表(2025/11/14)

日産自動車は2025年11月14日,ショッピングモール内で車両を展示する店舗「ウォークイン店舗」を倍増させると発表した。

現在の 13 のウォークイン店舗を 2027 年度には 30 店舗以上に増やすことを目指す。道路に面した通常の販売店と異なり,車の販売をせず,代わりに「アンバサダー」が車両の説明をする。

日産スタジアムの名称継続(2025/11/17)

日産スタジアムのネーミングライツをめぐり,横浜市は2025年11月17日,日産自動車と 5 年総額 6 億 5000 万円で契約更新に合意したと発表した。

日産は2026年3月から年間 5000 万円・1 年契約での更新を要望していたが,市議会などから意見を受け,山中竹春横浜市長が2025年9月に再検討を指示していた。

なお,契約内容には横浜市からの提案で途中解約となった場合の金額清算の考え方についても初めて盛り込まれた。

南アフリカの工場を中国・奇瑞汽車に譲渡(2026/1/23)

日産自動車は2026年1月23日,連結子会社の日産サウスアフリカが保有するロスリン工場と近隣のプレス工場を,中国の奇瑞汽車(チェリー)南アフリカに譲渡すると発表した(譲渡額は非開示)。

規制当局の承認などを経て,2026年半ばの売却を予定している。同工場に勤務する日産従業員の大多数がチェリー南アフリカから雇用を提示される予定。

また,譲渡後も日産は南アフリカで販売・流通事業を続ける方針。

日産自動車と Honda の経営統合

2024年12月23日,経営統合に向けた検討に関する基本合意書締結

2024年12月23日,日産自動車株式会社(以下,日産)と本田技研工業株式会社(以下,Honda)は,経営統合に向けた協議・検討を開始することについて合意し,共同持株会社設立による経営統合に向けた検討に関する基本合意書を締結したと発表。

株式移転計画を含む最終契約書の締結は,2025 年 6 月になると予定している。

経営統合の実現によるシナジー効果は,以下のように想定されている。

  1. 車両プラットフォームの共通化によるスケールメリットの獲得
  2. 研究開発機能の統合による開発力向上とコストシナジーの実現
  3. 生産体制・拠点の最適化
  4. 購買機能の統合によるサプライチェーン全体での競争力強化
  5. 業務効率化によるコストシナジーの実現
  6. 販売金融機能の統合に伴うスケールメリットの獲得
  7. 知能化・電動化に向けた人財基盤の確立

記者会見で,Honda の三部敏宏社長は,日産との経営統合に向けて動き出した理由を以下のように述べた。

電動化,知能化,自動運転技術などが今後飛躍的に進化する。まったく新しいモビリティービジネスに 10 年でなっていく。そこで戦うには個社では非常に厳しい。

2024年12月23日,三部敏宏(Honda)

経営統合には,何重にもハードルがあるが,第一のハードルは2025年1月末までに日産が十分な経営再建策を示せるかだ。

2025年2月5日,日産の臨時取締役会

2025年2月5日午後に開かれた日産の臨時取締役会に,経営統合の協議打ち切りが提案された。この日の取締役会では正式決定はなされなかったものの,Honda との経営統合を白紙に戻す方針を確認したという。

2025年2月6日,日産は経営統合協議を打ち切る意向

2025年2月6日,日産の内田誠社長が経営統合協議を打ち切る意向を Honda の三部敏宏社長に伝えた。両者は近く,それぞれ取締役会を開き,統合協議に関する基本合意書の撤回を図る予定。

前日の 5 日,日産と Honda の破断報道を受け,Honda 株だけでなく,日産株も一時急上昇した。日産株の上昇は,台湾の鴻海精密工業6による TOB(株式公開買い付け)の可能性を狙った買いとみられる。

2025年2月13日,経営統合協議を打ち切り

2025年2月13日,経営統合に向けた協議を打ち切り,2024年12月23日に締結した基本合意書を撤回すると正式に発表した。日産とホンダは同日,それぞれ取締役会で決議した。

ホンダの三部敏宏社長は「両社で納得できる合意点を見いだせなかった」と述べた。日産の内田誠社長は「(ホンダによる)完全子会社では日産の強みを最大化するのが難しいと考えた」と語った。

同日,両者は2024年4~12月期連結決算を発表した。最終利益は北米や中国事業の不振などで日産が前年同期比 98.4 % 減,ホンダは 7.4 % 減だった。経営統合協議を打ち切った両社を取り巻く環境は厳しさを増しており,それぞれ業績回復をどう図っていくかが問われる。

ホンダ日産
売上高16兆3287
(8.9)
9兆1432
(△0.3)
営業利益1兆1399
(5.9)
640
(△86.6)
最終利益8052
(△7.4)
51
(△98.4)
世界販売台数281 万台
(△9.5)
230 万台
(△9.2)
表 2024年4~12月期の連結決算
(単位は億円。億円未満は切り捨て。カッコ内は前年同期比伸び率 %。△はマイナス)

一方,両社は2024年8月に発表した電気自動車 (EV) や,ソフトウェアの更新で機能を向上できる次世代車 (SDV) の開発での協業は継続する方針を確認した。

鮎川義介氏が興した戦前の財閥,日産コンツェルンの傘下企業として発足した日産,かたや戦後,本田宗一郎氏が従業員わずか 20 人で始めたホンダ。社風も体質も違う両社は,それぞれ時計の進み方も違い,今回の経営統合の検討では,それを乗り越えることができなかった。

鴻海精密工業の動向

2024年12月,鴻海精密工業の幹部である関潤氏(かつて日産ナンバー 3 の副 COO を務めていた)が渡仏し,ルノーと日産株取得に向けて交渉していることを台湾メディアが報じた。

鴻海精密工業が日産買収の動きを見せたこともあり,日産と Honda はこれを防ぐために電光石火で経営統合協議に踏み切ったとも考えられる。

「ルノーは Honda と鴻海を両てんびんにかけて,日本株を高値で売却しようとしている」と日産関係者の間では緊張感が高まる。

2025年2月13日,日産の内田誠社長は「今後,検討を進める中で事業価値が上がる可能性がある。前向きにいろいろな議論を進めていきたい」と述べた。また同日,鴻海が日産の経営陣と対話した事実はないと答えた。

2025年3月14日,鴻海精密工業の劉揚偉・董事長(会長)は決算説明会で,電気自動車 (EV) 事業の設計・製造の受託生産サービス (CDMS) をめぐり,日本の自動車メーカと「1,2 か月以内に契約書にサインできる」との見通しを語った。具体的な名前を挙げなかったが,日産自動車という可能性は否定できない。

2025年3月20日,三菱自動車が鴻海精密工業から電気自動車 (EV) の供給を受けることがわかった。オセアニア地域で,鴻海が開発・製造した車両を三菱自動車のブランドで販売する。今後,三菱自動車との協業が,日産自動車を含む他のメーカにも広がるかも注目である。

2025年5月28日,鴻海精密工業の株主総会が開かれ,劉揚偉会長は日本の自動車メーカへの電気自動車 (EV) 供給について「三菱自動車に続いて 2 社目をまもなく発表できる」と述べた。

鴻海精密工業とは

鴻海精密工業は1974年2月20日,郭台銘によってテレビ部品を製造する鴻海塑膠(プラスチック)企業として設立された。本社を新北市に置く。1982年には商号を鴻海精密工業に改め,パソコン関連部品も手掛けるようになった。1985年に米国支社を立ち上げて以降フォックスコンという名称でブランドを展開。1988年に中国支社を立ち上げて富士康(フォックスコン)ブランドを中国でも展開した。

その後,ブラックベリー,iPhone,iPad,kindle などの電子端末の生産の他,任天堂やセガ,ソニー,マイクロソフトの歴代ゲーム機やソフトバンクのヒト型ロボット「ペッパー」の生産も手掛け,世界最大手の電子機器受託製造企業(2023年)とされる。2016年にシャープを買収して日本でもその名が広く知られるようになった。直近ではスマート家電,クラウドやネットワーク製品,電子機器などを手掛け,中国での売上比率が高い。

2019年には創業者の郭が台湾総統選出馬のため会長を退任,半導体部門のトップを務めていた劉揚偉(りゅうようい)が後任の会長に就任しており,劉の下で EV 開発が本格化した。

関潤氏は,鴻海精密工業に EV を任せるメーカ側の利点について 3 つを PR している。

  • 過剰生産能力や系列サプライヤー,時代遅れの技術といった「負の遺産」がない
  • ICT (情報通信技術)の強み
  • 決断の速いカルチャー

テスラの動向

2025年2月21日,英紙フィナンシャル・タイムズが菅義偉元首相や元テスラ7社外取締役の水野弘道氏らのグループが,日産自動車の支援を米電気自動車 (EV) メーカであるテスラに呼び掛けることを計画していると報じた。

報道を受けて,日産の株価は午後の東京市場での取引で上げ幅を拡大。一時前日比 13 % 高の 472.8 円まで買われ,2024年12月18日以来の日中上昇率を付けた。

テスラの CEO イーロン・マスク氏は,同期時に言及した投稿に対し,X 上で次のように返信した。

テスラの工場こそが製品だ。サイバーキャブの生産ラインは自動車業界では他に類を見ないものだ

テスラの工場は,日産自動車の工場とは違う,ということか。

また,元テスラ社外取締役の水野弘道氏も X 上に投稿し,関与がないことを明確に否定した。

トランプ関税

「タリフマン(関税の男)」を自称するトランプ米大統領は,2025年1月20日の第 2 次政権発足以降,米国への輸入品に関税をかける方針を相次いで打ち出している。

2025年2月18日,トランプ氏は記者会見で,米国に輸入される自動車に 25 % 程度の関税を課す方針を表明した。詳細は4月2日に公表するとして対象は明らかにしていないが,日本から輸出する自動車も対象となる可能性がある。

日産自動車の 2024 年の米国販売台数は 92 万台で,うち日本からの輸出台数は 15 万台である。関税の影響として,米国への生産移転を迫られ,日本からの輸出台数が減少することが想定される。

日産自動車の格付け

格付投資情報センター (R&I) : A-

2025年2月13日,格付投資情報センター (R&I) は日産自動車の発行体格付,債券格付,発行登録予備格付のいずれも「A」(ネガティブ)から「A-」(安定的)に引き下げた。

財務基盤がまだ良好な状態にあり,構造改革も実施していくことから,格付の方向性は安定的とした,としている。

日本格付研究所 : A-

2025年2月18日,日本格付研究所 (JCR) は日産自動車の長期発行体格付を「#A / ネガティブ」から「A-」(安定的)に引き下げた。

S&P グローバル・レーティング : BB-

2025年11月14日,S&P グローバル・レーティングは,日産自動車の長期格付けを「BB-」に一段引き下げた。

米国の関税政策によるコスト削減や厳しい競争環境,物価上昇に伴う費用の増加を踏まえると,コスト削減を計画どおり実行できても利益率の改善は限られるなどと指摘。主要市場で経営効率が低下しており,業績に引き続き下方圧力がかかるとみている。

日産自動車株式の取引履歴

私の日産自動車株式の取引履歴を示します。

約定日売買数量[株]単価[円]
2012-09-25買付100675
2017-10-03売付1001,084.5
2018-06-25買付4001070.0
2018-11-20売付200941.0
2018-12-21買付200899.0
2020-02-26買付400473.4
2024-07-25買付200498.0
表 日産自動車株式の取引履歴

日産自動車を含む自動車大手3社の株価の推移を示す。2017 年頃までは差は小さかったが,徐々に差が開いた。2025年2月現在,トヨタ 3,000 円(日産の 6 倍),ホンダ 1,500 円(日産の 3 倍),日産 500 円となっている。

図 自動車大手3社の株価推移(2010年以降)

参考文献

更新履歴

  • 2025年2月8日 新規作成
  • 中略
  • 2025年4月25日 日産自動車が2025年4月24日に発表した「2024年度通期連結業績の見通しの修正について」を反映
  • 2025年5月18日 2024年度通期決算の内容を反映
  • 2025年5月25日 日産リバイバルプランを追加
  • 2025年5月31日 鴻海精密工業の株主総会(2025年5月28日)の内容を追加
  • 2025年7月19日 追浜工場の生産終了を追加
  • 2025年8月31日 参考文献に「専門家の経済講座 WATHCERS 日産 100 万台縮小,現実的な計画」を追加
  • 2025年10月4日 横浜マリノスの経営権維持を追加
  • 2025年11月9日 2025年9月中間連結決算を反映
  • 2025年11月14日 ウォークイン店舗の倍増計画発表,S&P グローバル・レーティングを反映
  • 2025年11月17日 日産スタジアム名称継続を追加
  • 2025年12月13日 グローバル本社売却後の賃料の想定を追加
  • 2026年1月24日 南アフリカの工場を中国・奇瑞汽車に譲渡を追加
  • 2026年1月30日 2025 年のグローバル生産台数を追加
  • 2026年2月13日 2025年度第3四半期決算を反映

  1. 1905年3月1日生,1986年3月29日没。日産自動車中興の祖として知られ,同社の社長や会長,日本自動車工業会初代会長,経団連副会長,日経連副会長などを歴任した。 ↩︎
  2. 日産労組出身の塩路一郎氏は社内人事や重要な経営戦略に深く関与し,日産社内では「塩路天皇」と呼ばれるほど権勢を誇った。塩路氏は,作家の高杉良氏による経済小説『労働貴族』のモデルにもなった。 ↩︎
  3. Carlos Ghosn Bichara. 1954年3月9日生まれ。ブラジル出身の実業家。 ↩︎
  4. 2024年12月23日,「日産自動車とHonda、経営統合に向けた検討に関する基本合意書を締結」,日産自動車株式会社・本田技研工業株式会社 ↩︎
  5. 2024年12月23日,「日産自動車、Hondaと三菱自動車、3社協業形態の検討に関する覚書を締結」,日産自動車株式会社・本田技研工業株式会社・三菱自動車工業株式会社 ↩︎
  6. 台湾の鴻海精密工業は電子機器の受託製造を行う EMS 世界最大手だ。顧客に米アップル,グーグル,テスラなどハイテク大手を軒並み抱え,直近の年商は 32 兆 7050 億円に上る。 ↩︎
  7. テスラは,2003年7月1日に設立されたアメリカ合衆国の自動車メーカ。2008 年よりイーロン・マスク氏が CEO を務める。マスク氏によると,テスラの目的は「電気自動車や太陽光発電によって得られる持続可能な輸送とエネルギーへの移行を促進すること」にあるという。 ↩︎

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